日本の食品業界は、近年、海外市場で確かな存在感を示しつつあります。
日本の食品は「品質」「伝統」「健康志向」といった強みを背景に、世界中の消費者から高い評価を受けています。
しかし、海外進出における成功は決して偶然ではなく、綿密な戦略と実行力が必要不可欠です。
この記事では、実際に海外市場への進出で成功を収めた食品企業の事例を紹介し、その成功要因を詳しく解説します。
- 成功事例①:日本の即席麺メーカーにる東南アジアへの進出
- 成功事例②:日本の抹茶ブランドによる北米市場への進出
- 成功事例③:寿司チェーン店によるオセアニア地域への進出
- 海外の食品業界!成功事例に共通する4つのポイント
日本の中小企業が持つ技術力や商品力は、海外市場でも高く評価されているため、まずは成功事例から学び、自社の海外進出戦略を明確にしていきましょう。
成功事例①:日本の即席麺メーカーにる東南アジアへの進出
日本の大手即席麺メーカーA社は、東南アジア市場に進出し、大成功を収めました。
進出当初は日本製即席麺の価格が現地製品よりも高く、価格競争では不利と考えられていました。
しかし、「プレミアム即席麺」という新たな市場を創出することで地位を確立しました。
3つの主な成功要因
大手即席麺メーカーA社が東南アジア市場で大成功した要因は、主に以下の3つです。
⚫︎ 現地調査に基づいた味のローカライズ
- 東南アジア各国で人気のあるスパイシーな味付けを研究。
- 国ごとに受け入れられやすい独自のフレーバーを開発。
- 例えば、タイでは「トムヤムクン味」、インドネシアでは「サンバル味」などが大好評。
⚫︎ 現地生産の導入でコストを削減
- 日本から輸出するのではなく、現地で工場を設立することで、物流コストを削減。
- 地元の原材料を活用し、現地の生産者との協力関係に注力。
- 商品コストを抑えると同時に「地元密着型ブランド」としての信頼を獲得。
⚫︎ デジタルマーケティングによるターゲティング
- FacebookやInstagramなどのSNSを活用。
- 若年層をターゲットとした広告キャンペーンを展開。
- 例えば「日本のプレミアム品質」を強調したプロモーション動画。
- 口コミで急速に広がり、ブランド認知度が急上昇。
成功事例②:日本の抹茶ブランドによる北米市場への進出
抹茶製品を販売するB社は、北米市場で健康志向ブームを背景に急成長を遂げました。
特に「スーパーフード」としての抹茶を打ち出し、競合する海外ブランドとの差別化に成功しました。
3つの主な成功要因
抹茶製品を販売するB社が北米市場で急成長した要因は、主に以下の3つです。
⚫︎ 健康志向をテーマにしたマーケティング戦略
- 抹茶の抗酸化作用やカフェインの安定供給による「持続的なエネルギー」を強調。
- 「抹茶はコーヒーの代替品」としてアピール。
- 健康志向のミレニアル世代やZ世代に強く訴求
⚫︎ 多様な商品展開
- 従来の抹茶パウダーに加え、抹茶ラテ、抹茶スムージー、抹茶アイスクリームなど多様な製品を開発。
- 現地のカフェやスムージー専門店と提携し、抹茶を使ったオリジナルメニューの提供。
⚫︎ 現地パートナーシップの活用
- 北米の大手食品チェーンやオーガニックスーパーと提携し、一気に販路を拡大。
- 現地のインフルエンサーとコラボレーションし、ブランド認知も急上昇。
成功事例③:寿司チェーン店によるオセアニア地域への進出
寿司チェーン店を展開するC社は、ニュージーランド市場において「手軽で新鮮な寿司」というコンセプトで成功を収めました。
海外進出時の課題である「ローカル文化との融合」をクリアし、日本食を現地の日常生活に浸透させました。
3つの主な成功要因
寿司チェーン店を展開するC社がニュージーランド市場で成功した要因は、主に以下の3つです。
⚫︎ 現地消費者の行動パターンに合わせた業態
- 「ランチタイムに手軽に食べられるフード」が人気であることを把握。
- 手軽に持ち帰りできる「テイクアウト専門店」の形式を採用。
- 現地のローカルスーパーマーケットにも進出。
⚫︎ 新鮮さを強調したサプライチェーン構築
- 現地での魚介類調達を徹底し、新鮮さを追求。
- 「日本から直輸入した最高品質の米」と組合せにより、現地消費者の信頼を獲得。
- 寿司職人の技術を生かしたライブパフォーマンスで差別化。
⚫︎ 文化教育を兼ねたマーケティング
- 現地の学校や企業向けに「日本食の魅力」を伝えるイベントを定期開催。
- 単なる食品販売に留まらず、現地の人々との接点を増やすことに注力。
- こうした地道な活動もリピーター獲得に大きく貢献。
海外の食品業界に進出!成功事例に共通する4つのポイント
食品業界の海外進出で成功を収める企業には、いくつかの共通した戦略と実践があります。
ここでは、自社の戦略に活かせるようなヒントが得られるように、具体的なアクションプランに落とし込みながら深掘りしていきます。
【成功事例に共通する4つのポイント】
- 徹底した現地調査と適応
- ブランドの強みを活かした差別化
- 現地パートナーとの協力
- 持続可能なマーケティング戦略
それぞれ順に詳しく解説します。
1. 徹底した現地調査と適応
海外の食品業界における「現地の消費者ニーズ」をどれだけ深く理解できるかが成功の鍵です。
そして、そのニーズに応じた適切な商品・サービスを提供できるかにかかっています。
Q, 特に意識すべきことは?
⚫︎ 文化的背景を理解する
- 辛味やスパイシーな食品を好む東南アジアでは、「スパイシー」がキーワード重要。
- 一方、北米では「健康志向」や「オーガニック」が近年のトレンド。
⚫︎ 購入パターンを分析する
- 「どの時間帯に買うのか」
- 「何を買うのか」
- 「どこで買うのか」(スーパー、ECサイト、露店など)など
Q. どのように実践したらいいの?
- 現地消費者インタビュー
ターゲット顧客に直接インタビューを行い、商品のフィードバックを収集。 - 試験販売
小規模に商品をテスト販売し、売れ筋や消費者の反応をデータ化。 - 現地パートナーと連携
市場調査を進める際、現地の商社やコンサルティング会社を活用。
Q. どのようなツールを活用できる?
- Google Trends (*)
現地の検索トレンドを調査。 - 現地SNSモニタリング
ターゲット層のSNSでの好みやトレンドを把握。
(*) “Google Trends”(グーグルトレンド) とは?
Googleが提供する無料のツールで、特定のキーワードやトピックがどれだけ検索されているかの傾向を時系列や地域別に視覚化して分析できるサービスです。
企業や個人が、マーケティング戦略やコンテンツ制作の指針として使うことが多く、特にトレンド分析や市場調査に役立ちます。
2. ブランドの強みを活かした差別化
海外市場に存在する多数の競合の中で、自社の商品を選んでもらうための差別化が欠かせません。
明確な「独自価値提案(USP: Unique Selling Proposition)*」が必要です。
(*) “独自価値提案”(Unique Value Proposition / UVP) とは?
自社の商品やサービスが他社と比較してどのように優れているか、顧客にとってどんな独自の価値を提供できるかを明確に示すコンセプト のことです。
ビジネス戦略やマーケティングにおいて非常に重要な要素であり、顧客が数ある選択肢の中から「なぜあなたの製品・サービスを選ぶべきか」を瞬時に理解できるように示します。
Q, 特に意識すべきことは?
⚫︎「メイド・イン・ジャパン」の活用
(例) 抹茶ブランドは「日本の伝統」と「高品質」を前面に出し、アメリカのスーパーフード市場で成功を収めました。
⚫︎ 地域別の魅力を強調
ニュージーランドでは「持続可能性」や「環境配慮」が商品選択の重要なポイントとなります。
Q. どのように実践したらいいの?
⚫︎ 差別化要素の洗い出し
自社商品が「なぜ選ばれるのか」を明確化。以下のポイントでチェックするのが基本です。
- 競合が提供できない独自の機能・品質
- 他国製品と比べた際の優位性(例:味、パッケージデザイン、ストーリー性)
⚫︎ 感情に訴えるストーリーテリング
消費者に響くブランドストーリーを作り、マーケティングに活用。
Q. どのようなツールを活用できる?
- SWOT分析 (*1)
自社の強みと弱みを整理し、競合と比較。 - ビジュアルマーケティング (*2)
InstagramやPinterestを活用し、視覚的にブランドの魅力をアピール。
(*1) “SWOT分析”(スウォット分析)とは?
企業やプロジェクトの戦略立案や意思決定のために使われるフレームワークであり、内部環境と外部環境を整理・評価するための分析手法です。
- S:Strengths(強み)
- W:Weaknesses(弱み)
- O:Opportunities(機会)
- T:Threats(脅威)
(*2) “ビジュアルマーケティング”(Visual Marketing)とは?
視覚的な要素(写真、動画、グラフィック、インフォグラフィックなど)を活用して商品やサービスの価値を伝え、顧客の関心を引きつけるマーケティング手法のことです。
3. 現地パートナーとの協力
現地市場に迅速に適応するためには、信頼できる現地パートナーとの協力が欠かせません。
パートナーは、規制の理解から物流、販売網の構築に至るまで、様々な形で支援してくれます。
Q, 特に意識すべきことは?
⚫︎ 物流パートナー
例:日本の寿司チェーンがニュージーランドで地元のサプライヤーと提携し、新鮮な魚介類の安定供給を実現。
⚫︎ 販売チャネルの活用
現地のスーパーやフードチェーンとの契約により、初期段階での販路確保に成功。
Q. どのように実践したらいいの?
⚫︎ パートナー選定のポイント
以下の基準をもとに、信頼性を評価するのが基本です。
- 実績があるか?
- 自社の商品やビジョンを理解しているか?
- 長期的な協力関係が築けるか?
⚫︎ ウィンウィンの関係を構築
取引先にとってのメリットを提供し、持続可能な協力体制を目指します。
Q. どのようなツールを活用できる?
- LinkedIn (*1)
現地企業とのネットワーキングに活用。 - B2Bマーケットプレイス (*2)
AlibabaやTradeMeを活用して現地業者を検索。
(*1) LinkedIn(リンクトイン) とは?
ビジネス特化型のSNSプラットフォーム であり、主にプロフェッショナル同士のネットワーキング、キャリア構築、ビジネスチャンスの拡大を目的として利用されます。
世界中のビジネスパーソンや企業が登録しており、個人プロフィールを通じて経歴やスキルをアピールしたり、企業が採用活動やビジネスリードを獲得する手段として広く活用されています。(*2) B2Bマーケットプレイス(Business-to-Business Marketplace)とは?
企業間取引(B2B)を行うためのオンラインプラットフォーム のことです。複数の企業が集まり、商品やサービスの売買・取引を効率的に行える場所として機能します。
消費者向け(B2C)のマーケットプレイス(例:Amazonや楽天)とは異なり、主に企業や業者が取引相手となります。製品の大量取引、部品や原材料の調達、サプライチェーン管理などに活用されます。
4. 持続可能なマーケティング戦略
成功は一時的ではなく、継続的な成長に繋がる戦略であるべきです。
海外進出後も、現地市場に定着するためのマーケティングが鍵となります。
Q. 効果的なマーケティングアプローチは?
⚫︎ デジタルマーケティングの活用
(例) 抹茶ブランドはYouTubeやInstagramで現地の健康志向インフルエンサーを起用し、口コミを広げました。
⚫︎ 定期的な現地イベント開催
ニュージーランドでは寿司チェーンが「日本文化体験イベント」を通じて、消費者との距離を縮めました。
Q. 実践する際のポイントは?
⚫︎ リテンション戦略を重視
新規顧客の獲得だけでなく、リピーターを増やすための施策(例:ロイヤルティプログラム、会員限定キャンペーン)。
⚫︎ 多チャネル展開
オンラインとオフラインを組み合わせ、幅広い接点を持つ。
Q. どのようなツールを活用できる?
- Google Analytics (*1)
キャンペーン効果の測定。 - HubSpot (*2)
顧客管理とマーケティングオートメーションを効率化。
(*1) “Google Analytics”(グーグルアナリティクス) とは?
Googleが提供する“無料”のウェブ解析ツール であり、ウェブサイトやアプリの訪問者データを詳細に分析可能です。ユーザーの行動や流入経路、ページごとのパフォーマンスを可視化し、マーケティングやサイト改善の戦略に役立てることが可能です。
企業のマーケティング担当者やウェブサイト運営者にとって、最も広く使われているデータ分析ツールの一つです。
(*2) “HubSpot”(ハブスポット)とは?
マーケティングオートメーション、CRM(顧客関係管理)、営業支援、カスタマーサービスを統合したプラットフォームです。企業がリード獲得、顧客管理、コンテンツマーケティング、SEO対策を効率的に進めるために広く利用されています。
【参考】食品業界で成功するための “アクションプラン”
海外の食品業界での成功事例をもとに、一例として、基本的な方針をまとめたアクションプランは以下の通りです。
【アクションプランの例】
- 現地市場調査を実施し、ターゲット顧客を具体化。
- 自社商品・サービスの差別化ポイントを明確化し、”独自価値提案” を構築。
- 現地パートナー候補をリストアップし、協力可能な企業にアプローチ。
- テストマーケティングを通じて戦略を微調整。
- 継続的なマーケティングでブランド価値を高める。
このように成功事例に学びながら計画することで、成功確率を高めることができます。
まとめ:食品業界の海外進出における可能性と未来
これまで解説してきた通り、海外食品業界の成功事例を振り返ると、以下のように共通するポイントが4つ挙げられます。
【成功事例に共通する4つのポイント】
- 徹底した現地調査と適応
- ブランドの強みを活かした差別化
- 現地パートナーとの協力
- 持続可能なマーケティング戦略
即席麺メーカーの東南アジア市場での成功、抹茶ブランドの北米市場での展開、寿司チェーンのニュージーランド定着といった事例は、それぞれの市場特性に合わせた柔軟な戦略が功を奏した結果です。
ここから特に学べるのは、現地市場に根ざした「実践的な戦略」を構築し、着実に実行することが成功の鍵という点と言えます。
先ほど紹介した成功事例と共通ポイントを、自社の課題やリソースに合わせて応用することで、成長への道筋へのヒントが掴んでほしいと思います。
(*) もう一度チェックしたい箇所があれば、以下をクリックするとジャンプします。
- 成功事例①:日本の即席麺メーカーにる東南アジアへの進出
- 成功事例②:日本の抹茶ブランドによる北米市場への進出
- 成功事例③:寿司チェーン店によるオセアニア地域への進出
- 海外の食品業界!成功事例に共通する4つのポイント
最後にこの記事が、食品業界で海外進出を検討する際の何かお役に立てたら幸いです。