ニュージーランドのアンザックデーとは?歴史・儀式・現地の過ごし方をやさしく解説

アンザックデーのアイキャッチ

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4月25日――ニュージーランドではこの日、「アンザックデー(ANZAC Day)」として、国を挙げて過去の戦争で命を落とした兵士たちを追悼します

多くの人にとっては「祝日」のひとつかもしれませんが、その意味を深く知ると、ニュージーランドという国の歴史観や国民意識が見えてきます。

このページでは、アンザックデーの成り立ちから現在の過ごし方まで、日本人にもわかりやすく解説します。

  1. アンザックデーとは何か?
  2. アンザックという言葉の意味
  3. ガリポリの戦いとその背景
  4. なぜ4月25日なのか
  5. 現代のアンザックデーの過ごし方
  6. ドーン・サービス(夜明けの追悼式)とは
  7. 学校・職場・商業施設の対応
  8. オーストラリアとの関係性
  9. 日本人として知っておきたいポイント4つ

最後まで読めば、これまでなんとなく知っていたアンザックデーの意味についてより理解できるようになるでしょう。

1. アンザックデーとは何か?

アンザックデー

アンザックデー(ANZAC Day)は、第一次世界大戦中に戦ったオーストラリア・ニュージーランド軍団の兵士たちをはじめ、すべての戦争で命を落とした人々を追悼する日です。

この「オーストラリア・ニュージーランド軍団」は、英語で ANZAC(Australian and New Zealand Army Corps) と呼ばれます。

ニュージーランドとオーストラリアの両国で、毎年4月25日に行われる国民的な記念日であり、深い歴史的・精神的な意味を持っています。

4月25日の早朝に開催される「追悼式」

ニュージーランドではこの日、全国の都市や町で追悼式が行われ、早朝の「ドーン・サービス(Dawn Service)」を皮切りに、式典や行進、献花などが続きます。

式典には退役軍人、現役軍人、その家族をはじめ、一般市民や学校の児童・生徒も参加し、世代を超えて記憶と敬意が引き継がれています。

単なる祝日ではなく、「静かな感謝と追悼の日」として、多くのニュージーランド人にとって非常に特別な一日です。

アンザックデーは、戦争の悲劇と教訓を忘れず、平和への願いを新たにする機会として今も大切にされています。

2. アンザックという言葉の意味

先ほど触れたとおり、「ANZAC(アンザック)」は、Australian and New Zealand Army Corps(オーストラリア・ニュージーランド軍団)の頭文字を取った略語です。

1915年、第一次世界大戦中に結成されたこの軍団は、オスマン帝国(現在のトルコ)との戦いの一環として、ガリポリ半島(Gallipoli)への上陸作戦に参加しました。

この作戦は結果的に多くの犠牲を伴う失敗に終わりましたが、過酷な状況の中で戦った兵士たちの勇気、仲間への思いやり、忍耐、そして犠牲の精神が、後に「アンザックスピリット(ANZAC Spirit)」として称えられるようになります。

ニュージーランドでは、ANZACという言葉そのものが、単なる軍の名称を超えて、「国としての誇り」や「共同体としての結束」を象徴する存在となっています。

現在では軍人に限らず、災害時のボランティアや支え合いの精神にも「アンザックスピリット」が受け継がれていると考えられており、教育現場や社会全体で語り継がれています。

3. ガリポリの戦いとその背景

ガリポリの戦い

出典:wikipedia

アンザックデーの起源ともいえるのが、1915年に行われた「ガリポリの戦い」です。

この戦いは第一次世界大戦中、連合国(イギリス・フランスなど)がオスマン帝国を打倒するために行った作戦の一部で、トルコのダーダネルス海峡の支配権を握ることが目的でした。

ニュージーランドとオーストラリアの兵士たちは、4月25日にトルコのガリポリ半島に上陸。

しかし、予想を超える険しい地形とオスマン軍の激しい抵抗に遭い、作戦は泥沼化します。

物資不足、劣悪な環境、戦局の混乱の中で、多くの若い兵士たちが命を落としました。

激戦によりニュージーランド兵士の約3人の1人が戦死

ニュージーランドからは約8,500人の兵士がこの作戦に参加し、そのうち約2,700人が戦死したとされています。

人口が100万人ほどだった当時のニュージーランドにとって、この損失は国全体に大きな衝撃を与えるものでした。

この戦いを通じて、ニュージーランド人としてのアイデンティティが形成されていったとも言われています。

それまで「イギリスの一部」としての意識が強かった国民が、初めて「ニュージーランドという独立した国」としての自覚を持つきっかけになった出来事でもあるのです。

4. なぜ4月25日なのか

アンザックデーが毎年4月25日に行われるのは、まさにその日が「ガリポリ上陸作戦の開始日」だったからです。

1915年4月25日、オーストラリアとニュージーランドの兵士たちがガリポリ半島に初めて上陸し、過酷な戦闘が始まりました。

この日付は、作戦自体の成功や失敗とは関係なく、若き兵士たちの勇気、自己犠牲、そして戦争の悲劇を記憶する象徴的な日として選ばれました。

1916年には、すでにニュージーランド国内で最初のアンザックデーの追悼式が行われており、その後も毎年この日に、全国各地で追悼行事が続けられています。

また、ニュージーランドでは4月25日が「祝日(Public Holiday)」として法的に定められており、国民全体が追悼と記憶を共有する時間を持てるようになっています。

このように、4月25日は単なる日付ではなく、ニュージーランドの歴史に深く刻まれた記念日として、世代を超えて大切にされ続けています。

5. 現代のアンザックデーの過ごし方

現代のニュージーランドでは、アンザックデーは静かに過ごす「追悼の日」として定着しています。

派手なイベントやお祝いムードはなく、むしろ一人ひとりがそれぞれの形で、戦争と平和について思いを巡らせる日です。

朝は「ドーン・サービス(Dawn Service)」と呼ばれる夜明けの追悼式から始まります。

各地の戦没者記念碑や公園に人々が集まり、静寂の中で献花、黙祷、国家の斉唱などが行われます。

まだ暗い時間帯にもかかわらず、家族連れや若者を含む多くの人が参加する姿は、アンザックデーが今も人々の心に生きていることを物語っています。

その後、午前中にはパレード(行進)が行われる地域もあります。

退役軍人や現役兵士、学校の生徒、地域団体などが通りを行進し、市民が拍手で敬意を表します。

午後は静かに家で過ごす人も多く、テレビでは戦争関連のドキュメンタリーや特別番組が放映されます。

カフェやスーパーなども、午前中は営業を自粛しているところが多く、街全体がいつもより落ち着いた雰囲気になります。

また、若い世代への教育も重視されており、学校ではアンザックデーに関する授業や作文、アート活動などを通じて、記憶と平和の意識が受け継がれていくよう工夫されています。

6. ドーン・サービス(夜明けの追悼式)とは

ドーン・サービス

出典:New Zealand History (1986年撮影)

ドーン・サービス(Dawn Service)は、アンザックデーの象徴的な行事のひとつであり、全国各地で夜明け前から行われる追悼式です。

1916年にオーストラリアで初めて行われたのが始まりとされ、その後ニュージーランドにも広がり、今では毎年4月25日の早朝、静寂の中で多くの人々が集まります。

この式典は、1915年4月25日の「ガリポリ上陸作戦」が夜明けに開始されたという歴史的背景に基づいています。

また、当時の軍の伝統では、夜明け前は敵の奇襲に備えて全員が持ち場に立ち、緊張の中で静かに時間を過ごしていたため、その張り詰めた空気を再現する意味も込められています。

式典では、次のような流れで進行します:

  • 集会の前の静かな待機時間
  • 軍関係者や市民代表によるスピーチ
  • 黙祷(通常は夜明けの瞬間に合わせて1〜2分間)
  • ラスト・ポスト(戦没者を追悼するラッパの演奏)
  • レクイエムの朗読(詩など)
  • 献花やポピーの捧呈
  • ニュージーランド国歌の斉唱

参加者は多くが黒や暗めの服装で、静かに耳を傾けながら敬意を表します。

家族連れや若者の参加も年々増えており、世代を越えて記憶と意味が受け継がれているのが特徴です。

また、都市部だけでなく小さな町や村でも行われており、それぞれの地域で個性ある温かな追悼の場が生まれています。

多くの人が早朝にもかかわらず参加する姿は、アンザックデーが「国家の記憶」として、今も深く根付いていることを実感させてくれます

7. 学校・職場・商業施設の対応

アンザックデーは、ニュージーランドの法定祝日(Public Holiday)として定められており、学校や多くの職場はこの日お休みになります。

特に、4月25日が平日の場合でも休校・休業となるのが一般的です。

学校での取り組み

アンザックデー当日は休校ですが、その前後には多くの学校で戦争の歴史や平和について学ぶ特別授業が行われます。

小学校ではポピーを作るアート活動や追悼詩の朗読、中高では戦争文学の読解やエッセイの執筆、地域の追悼式への参加など、年齢に応じた学びが用意されています。

これにより、若い世代がアンザックデーの意味を理解し、自国の歴史や平和への意識を高める機会となっています。

職場・ビジネスの対応

職場も基本的には休業ですが、24時間営業の業種や医療機関、一部のスーパーなどは、午前1時から午後1時までの間は営業を制限する法律(Anzac Day Trading Hours)に従う必要があります。

たとえば、多くのスーパーやカフェ、ショッピングモールは午後1時以降にオープンし、それまでは営業停止となります。

これにより、従業員がドーン・サービスなどの追悼行事に参加できるよう配慮されているのです。

商業施設・レジャー施設

観光地やレジャー施設も、午前中は閉館・休業としている場合が多く、開館時間は午後以降に限定されることが一般的です。

観光客にとっては少し不便かもしれませんが、それも含めてこの国がアンザックデーをどれほど大切にしているかを感じるきっかけになるでしょう。

8. オーストラリアとの関係性

アンザックデーは、ニュージーランドだけでなくオーストラリアでも同様に祝われる日です。

この日を通じて、両国は歴史的な絆と共通の価値観を改めて確認し合います。

ANZAC(アンザック)の本来の意味

ANZACは、「Australian and New Zealand Army Corps(オーストラリア・ニュージーランド軍団)」の略であり、第一次世界大戦中、イギリスの支援国として共に戦った兵士たちを指します。

1915年のガリポリ上陸作戦では、オーストラリアとニュージーランドの兵士たちが混成部隊として共に戦い、多大な犠牲を出しました。

この共闘が、両国の間に強い友情と相互理解を生むきっかけとなり、以後も戦争や災害支援、国際協力などの場面で協力関係が続いています。

共に記憶を継承する日

オーストラリアでもニュージーランドと同様に、4月25日にドーン・サービスやパレード、学校教育などが行われ、アンザック精神(ANZAC Spirit)が語り継がれています。

また、オーストラリアとニュージーランドのリーダーが共同で式典に出席したり、戦地での合同追悼式が開かれるなど、両国のつながりを象徴するイベントも多く見られます。

現代におけるANZACの意義

近年では、戦争の記憶を共有するだけでなく、平和構築・多文化共生・自由の尊重といった現代的価値観を共有する機会としても、アンザックデーは再評価されています。

特に国際社会における協調の重要性が高まる中、ANZACは「軍団」から「価値観の象徴」へとその意味を広げつつあるのです。

9. 日本人として知っておきたいポイント4つ

アンザックデーは一見、ニュージーランドやオーストラリアの「戦争の歴史」に関する記念日ですが、日本人としても大切に理解しておきたい点がいくつかあります

現地に住む方はもちろん、旅行やビジネスで訪れる方にとっても、その意味を知ることは大きな敬意と配慮につながります。

1. 「祝日」ではなく「追悼の日」

アンザックデーは「楽しい休日」というよりも、静かに戦没者を追悼する厳粛な日です。

観光地でも午前中は静けさに包まれ、店舗の営業も制限されることが多いため、旅行中であってもこの日の特別な雰囲気を尊重することが大切です。

2. 式典に参加する際のマナー

ドーン・サービスなどの追悼式に参加する際は、黒や落ち着いた色の服装を心がけ、式典中は会話や写真撮影を控えるのが基本です。

地元の人々と一緒に黙祷を捧げる姿勢は、文化を尊重する証となります。

また、式典には誰でも参加できます。宗教や国籍を問わず、多様な人々が集まる場でもあり、平和を願う気持ちを共有できる貴重な機会です。

3. 「ポピー」の意味を知っておく

赤いポピーのバッジ

出典:wikipedia

アンザックデーが近づくと、街中で赤いポピー(ひなげし)のバッジをつけた人をよく見かけます。

これは戦没者への追悼と敬意を表すシンボルであり、募金活動も行われています。

もし機会があれば、ポピーのバッジを身につけることで、共に記憶を共有する意思表示にもなります。

4. 日本との歴史的関係と向き合う視点

ニュージーランドにとっての戦争の記憶は、日本とは異なる立場にあります。

第二次世界大戦では、ニュージーランドと日本は敵国同士でしたが、現在では平和な関係を築いており、戦争の歴史を乗り越えた国際的な理解と協調の象徴として、アンザックデーの意義はますます広がっています。

だからこそ、日本人がこの日を尊重する姿勢を持つことは、未来志向の国際関係を育てるうえでも意義深いと言えるでしょう。

10. まとめ:静かに心を寄せる一日

アンザックデーは、ニュージーランドに住む人々にとってただの祝日ではなく、「静かな誇り」と「深い哀悼」が共存する特別な日です。

この日を通じて、人々は戦争の記憶と犠牲、そして今ある平和の重みを改めて見つめ直します。

「忘れないこと」の大切さ

夜明けの冷たい空気の中、ろうそくの光やラッパの音に包まれながら、老若男女が静かに立ち尽くす光景は、国民の記憶と感情がひとつになる瞬間です。

そこには、国家の歴史だけでなく、家族や地域のつながり、そして「忘れないこと」の大切さが深く息づいています。

日本人としてこの文化に触れることは、単なる異文化理解を超え、世界の中でどう共に生きるか、過去とどう向き合うかを考えるきっかけにもなるでしょう。

アンザックデーは、派手な演出も賑やかさもありませんが、心の奥深くに届く一日です。

その静けさの中にある想いを感じ取り、そっと心を寄せてみる——

それこそが、この日を共に過ごす私たちにできる、最も誠実な行動かもしれません。

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